
容量市場とは、将来の電力供給を安定させるために、発電能力(kW)をあらかじめ確保する仕組みです。
電力自由化の進展により、電気の供給体制は大きく変化しており、企業にとっても無関係ではありません。
特に、容量市場の導入によって電気料金に影響が出るケースもあり、「どのような仕組みなのか」「自社にどのような影響があるのか」と気になる方も多いのではないでしょうか。
また、容量市場は発電事業者だけでなく、デマンドレスポンス(DR)を通じて企業も間接的に関わる可能性があります。
電力コストの最適化やエネルギー管理の観点からも、制度の理解と対応が重要です。
本記事では、容量市場の基本的な仕組みや参加方法、メリットをわかりやすく解説するとともに、企業が押さえておきたい対応ポイントについても詳しく紹介します。
目次
容量市場とは?
容量市場とは、将来の電力供給に必要な「発電できる力(kW)」をあらかじめ確保するための市場です。
電気そのものの使用量(kWh)を売買するのではなく、電力が必要になったときに安定して供給できる能力に価値をつける仕組み、と捉えると分かりやすいでしょう。
容量市場がなぜ必要なのか、そして卸電力取引市場と何が違うのかを紹介します。
容量市場の目的
容量市場の目的は、将来にわたって安定した電力供給を維持することです。
電力は需要と供給のバランスが崩れると停電につながるため、あらかじめ必要な供給力(kW)を確保しておく必要があります。
また、再生可能エネルギーの導入が進む中で、天候に左右される電源が増えていることも背景にあります。
出力が不安定な電源を補うためには、火力発電など調整可能な電源の存在が不可欠です。
容量市場は、こうした調整力を確保し、需給ひっ迫や電力価格の急騰を防ぐ役割も担います。
容量市場と卸電力取引市場との違い
容量市場と卸電力取引市場の違いは、「何に対して対価が支払われるか」にあります。
容量市場は将来の供給力(kW)に価値をつける仕組みであるのに対し、卸電力取引市場は実際に発電・消費された電力量(kWh)を売買する市場です。
卸電力取引市場では、需要が高い時間帯ほど価格が上がり、発電した分だけ収入が発生します。
一方で、容量市場は将来の特定の期間に供給できる能力をあらかじめ確保するため、実際に発電したかどうかにかかわらず対価が支払われます。
容量市場の仕組み

オークションの流れや価格の決まり方など、具体的な容量市場の仕組みを見ていきましょう。
オークションの流れ(4年前市場)
容量市場では、将来(約4年後)を見据えて契約と義務を設定することで、電力不足のリスクを抑える仕組みです。
- 電力広域的運営推進機関が将来の電力需要を予測し、必要となる供給力(kW)を算定
- オークションが実施され、発電事業者やアグリゲーターが供給可能な容量と希望価格を提示
- 提示された価格の低い順に採用され、必要な容量に達した時点で約定
- 約定結果をもとに、対象年度に向けた供給力の確保が進められる
落札した事業者は、対象年度に向けて供給力を確保する義務を負います。
計画どおりに供給できなかった場合にはペナルティが課されるため、注意が必要です。
約定価格の決まり方
容量市場の約定価格は、オークションにおける需要と供給のバランスによって決まります。
発電事業者やアグリゲーターは、供給できる容量(kW)と希望価格を提示し、その価格の低い順に採用されていきます。
必要な供給力を満たした時点で、最後に採用された価格が「約定価格」です。
この価格は落札したすべての事業者に一律で適用される仕組みで、いわゆるシングルプライス方式です。
実際の約定価格がどのように推移しているのか、最新のオークション結果を見てみましょう。

上記は電力広域的運営推進機関が公表しているメインオークションの約定価格(エリアプライス)の推移です。
年度やエリアによって差はあるものの、高いエリアでは1万4,000円〜1万5,000円/kW前後、需給に余裕のある西日本エリアなどでは3,000円〜8,000円/kW台など、エリア別の価格差(エリアプライス)が顕著に現れて推移していることが分かります。
容量市場の種類|集中型と分散型
容量市場には、大きく「集中型」と「分散型」の2つの考え方があります。
日本で導入されているのは集中型であり、制度の特徴を理解するうえで押さえておきたいポイントです。
集中型は、電力広域的運営推進機関のような中立機関が一括して供給力を調達する仕組みです。
将来の電力需要をもとに必要な容量を算定し、全国規模でオークションを実施します。
需給バランスを広域で最適化できるため、安定供給を確保しやすいことが特徴です。
一方の分散型は、小売電気事業者などがそれぞれ必要な供給力を個別に確保する仕組みです。
各事業者が責任を持って電源を調達するため、競争原理が働きやすい一方で、需給の偏りが生じるリスクもあります。
容量市場に参加する方法や条件
容量市場は発電事業者だけの仕組みではなく、条件を満たせば需要家(企業)も関与できます。
特にデマンドレスポンス(DR)を通じた参加は、電力コストの見直しやエネルギー管理の高度化と直結するため、総務・設備担当として押さえておきたいところです。
容量市場に参加できる事業者の種類
容量市場に参加できる事業者は、大きく「供給側」と「需要側」に分かれます。
どの立場で参加するかによって役割や収益の得方が異なるため、全体像を押さえておきましょう。
まず供給側は、発電所を保有・運用する発電事業者です。
火力・水力・再生可能エネルギーなどの電源を対象に、将来供給できる容量(kW)を提供することで報酬を得ます。
一方の需要側として代表的なのが、デマンドレスポンス(DR)に参加する企業です。
自社の電力使用量を調整することで「仮想的な供給力」として評価され、容量市場に組み込まれます。
ただし、多くの場合は企業単独ではなく、アグリゲーターを通じて参加します。
アグリゲーターは複数の企業を束ね、調整可能な電力をまとめて市場に提供する役割です。
企業が参加するための条件
企業が容量市場に関与する場合、多くはデマンドレスポンス(DR)を通じた参加となります。
具体的には、あらかじめ決められたタイミングで電力使用量を抑えられることが前提です。
例えば、生産設備の稼働時間をずらす、空調や照明の出力を一時的に調整するなど、ピーク時の電力需要をコントロールする必要があります。
また、実績を確認するための計測体制も欠かせません。
電力使用量をリアルタイムまたは一定間隔で把握し、削減量を客観的に示せる環境が求められます。
こうしたデータがなければ、供給力として評価されません。
関連記事:デマンドレスポンス(DR)とは?参加するメリット・契約までの流れを分かりやすく紹介
企業が参加する方法・流れ
企業が容量市場に関与する場合、実務ではアグリゲーターを通じてデマンドレスポンス(DR)に参加する形が一般的です。
大まかな流れは次のとおりです。
- 自社の電力使用状況を把握し、削減可能な余地(調整力)を確認
- アグリゲーターと契約し、DRプログラムの内容や条件を取り決める
- 対象となる設備や運用ルールを設定し、削減対応の準備を行う
- 需要ひっ迫時などに(通常、数時間前にアグリゲーターから)削減要請を受け、あらかじめ決めた方法で電力使用を調整
- 削減実績が評価され、容量市場やDR報酬として対価が支払われる
この流れの中で重要なのは、「どの設備でどの程度削減できるか」を事前に明確にしておくことです。
あらかじめ運用ルールを決め、実行できる体制を整えておきましょう。
参加時の注意点・ペナルティ
まず注意したいのは、計画どおりに対応できなかった場合のペナルティです。
例えば、削減要請に応じられなかった、想定していた削減量に達しなかったといったケースでは、報酬の減額やペナルティが課される可能性があります。
安易に高い削減量を設定すると、かえってリスクが高まります。
また、現場への影響も考慮する必要があります。
無理な電力削減は、生産効率の低下や品質トラブルにつながるおそれがあります。
設備や業務にどの程度影響が出るのかを事前に確認し、現実的な範囲で対応することが大切です。
容量市場・デマンドレスポンス(DR)に関わるメリット

容量市場やデマンドレスポンス(DR)は、企業にとっても、コスト削減や運用改善につながる実務的なメリットがあります。
DRを活用することで得られるメリットについて、見ていきましょう。
DRによる報酬を得られる
デマンドレスポンス(DR)に参加すると、電力使用量の調整に応じて報酬を得られます。
需要が高まる時間帯に電力使用を抑えることで、その削減分が供給力として評価され、対価が支払われる仕組みです。
報酬は、あらかじめ確保した削減能力(kW)に対して支払われる場合と、実際の削減実績に応じて支払われる場合があります。
いずれも、単に電気を使うだけでなく、使い方を工夫することで収益につながることが特徴です。
電力コストの削減につながる
基本料金は、一定期間の最大デマンド値をもとに設定されます。
そのため、ピーク時の電力使用を抑えるだけでも、毎月の固定費を引き下げる効果が期待できるでしょう。
また、容量市場のコストは電気料金の一部として反映されるため、ピーク需要を抑える取り組みは間接的に負担軽減にもつながります。
エネルギー管理の最適化につながる
どの設備がどの時間帯に電力を消費しているのかを把握できれば、無駄な使用やピークの原因を特定できます。
例えば、特定の時間帯に電力使用が集中している場合は、設備の稼働時間を分散させる、優先度の低い機器の運転を一時的に停止するなど具体的な対策を検討できます。
デマンド管理を効率的に進めるには、電力使用量をリアルタイムで把握できる仕組みの導入も有効です。
弊社渡辺電機工業株式会社では、デマンド監視やエネルギーの見える化を支援するサービスを提供しています。
エネルギー管理の最適化に取り組みたい場合は、お気軽にお問い合わせください。
省エネ・脱炭素・社会的評価の向上につながる
デマンドレスポンス(DR)への取り組みは、単なるコスト削減にとどまりません。
エネルギー使用量の抑制やピーク需要の低減は、そのまま省エネやCO₂排出量の削減にもつながります。
企業としては、こうした取り組みを進めることで、環境負荷の低減に貢献できます。
近年は取引先や投資家からESGや脱炭素への対応を求められる場面も増えており、エネルギー管理の取り組みが企業評価に影響するケースも少なくありません。
また、データに基づいたエネルギー管理を行っている企業は、対外的にも信頼性が高いと評価されやすくなります。
省エネ施策の実施状況や削減実績を説明できる状態を整えておくことで、入札や取引の場面で有利に働く可能性もあります。
容量市場に対応するための取り組み
容量市場やデマンドレスポンス(DR)に対応するには、実際の電力使用状況を踏まえた運用改善や設備対応が求められます。
容量市場への対応や電力コストの最適化につながる具体的な取り組みを解説します。
最大需要電力(デマンド)を把握・管理する
容量市場やDRに対応するうえで、まず取り組むべきなのが最大需要電力(デマンド)の把握です。
電気料金の基本料金はデマンド値をもとに決まるため、現状を正確に把握していなければ適切な対策は取れません。
具体的には、「いつ」「どの設備で」「どれだけ電力を使っているのか」を把握する必要があります。
ピークが発生している時間帯や原因となる設備が分かれば、対策の優先順位も見えてきます。
感覚ではなく、データに基づいて判断することが重要です。
また、継続的に管理する体制も欠かせません。
一時的にデマンドを抑えても、運用が戻れば再びピークが発生する可能性があります。
関連記事:デマンド監視装置とは?仕組みやメリット・導入方法を分かりやすく解説
ピークカット・ピークシフトを実施する
ピークカットは、電力使用がもっとも多い時間帯の使用量そのものを下げる方法です。
不要な設備の停止や出力調整を行い、最大デマンドの発生を抑えます。
一方のピークシフトは、電力使用のタイミングをずらす方法です。
稼働時間を変更することで、特定の時間帯に電力が集中しないようにします。
例えば、空調や生産設備の稼働時間を分散させる、蓄熱・蓄電設備を活用するなどの方法があります。
こうした対策を組み合わせ、業務への影響を抑えながらピーク対策を進めていきましょう。
関連記事:ピークカット・ピークシフトとは?仕組みと電気代削減の理由、工場での実践方法を解説
設備運用を最適化する
ピーク対策を継続的に機能させるには、設備の運用方法そのものを見直すことが重要です。
単発の調整ではなく、日常運用の中に組み込むことで、無理なくデマンドを抑えられます。
また、データを活用した改善も欠かせません。
電力使用状況を継続的に確認し、想定どおりに運用できているかを検証します。
必要に応じて設定や運用ルールを見直し、より効果的な状態へ調整していきましょう。
容量市場に関するよくある質問
容量市場に関するよくある質問を紹介します。
容量市場はいつから始まったの?
日本の容量市場は、2020年度に初めてオークションが実施されました。
このオークションは、約4年後にあたる2024年度の供給力を確保するために行われたものです。
その後も毎年オークションが実施されており、将来の電力需要に応じた供給力の確保が継続的に進められています。
こうした仕組みによって、発電設備の維持や新規投資の判断がしやすくなり、安定供給の確保につながっています。
制度としては比較的新しいものの、電力の自由化や再生可能エネルギーの拡大に対応する重要な仕組みです。
今後も電力需給の状況に応じて、制度の見直しや改善が進められていくと考えられます。
容量市場の約定結果はどこで確認できる?
容量市場の約定結果は、電力広域的運営推進機関の公式サイトで確認できます。
メインオークションの結果として、約定価格(エリアプライス)や落札容量などが公表されています。
具体的には、年度ごとの約定価格やエリアごとの価格差、供給力の内訳などが掲載されており、市場の動向を把握する際の参考になるでしょう。
過去の結果も公開されているため、価格の推移や傾向を確認することも可能です。
実務では、これらの情報をもとに電力コストの見通しを立てたり、DRへの参加やデマンド対策の検討に活用したりします。
定期的に最新情報を確認し、自社のエネルギー管理に役立ててください。
容量市場のガイドラインとは?
容量市場のガイドラインとは、制度の運用ルールや参加要件、評価方法などを定めた指針のことです。
容量の提供方法やペナルティの考え方、アグリゲーターの役割など、実務に直結する内容が整理されています。
日本では、電力広域的運営推進機関が中心となってガイドラインを策定・公表しています。
内容は制度の見直しに合わせて更新されるため、最新の情報を確認することが重要です。
特に、DRとして参加する場合は、どのような条件で供給力として認められるのか、どのような場合にペナルティが発生するのかを事前に把握しておく必要があります。
運用ルールを理解せずに参加すると、想定外のリスクにつながる可能性があるため注意しましょう。
容量市場のリクワイアメントとは?
容量市場のリクワイアメントとは、供給力として認められるために満たすべき要件のことです。
発電設備やデマンドレスポンス(DR)が、確実に電力需給の調整に貢献できるかを評価する基準と考えると分かりやすいでしょう。
例えば、発電設備であれば、必要なタイミングで安定して発電できることが求められます。
DRの場合は、要請に応じて計画どおりに電力使用を削減できるかどうかが重要です。
単に削減できる余地があるだけでは不十分で、実行可能性や継続性も評価対象となります。
また、実績の確認方法やデータの提出方法なども定められており、客観的に供給力として機能していることを示す必要があります。
容量市場システムとは?
容量市場システムとは、オークションの実施や約定結果の管理、各種手続きを行うための専用システムです。
容量の登録や入札、結果の確認などは、このシステムを通じて行われます。
主に発電事業者やアグリゲーターが利用するものであり、企業が直接操作する機会は多くありません。
ただし、DRに参加する場合は、アグリゲーターを通じて間接的に関わることになります。
具体的には、自社に設置した高精度な電力計で計測された30分ごとの電力使用量データが、この容量市場システム上での削減実績(リクワイアメント)の評価基準となります。
まとめ
容量市場は、将来(約4年後)の電力供給力(kW)をあらかじめ確保することで、安定供給を支える仕組みです。
卸電力取引市場とは異なり、「発電できる能力」に対して対価が支払われることが特徴です。
また、企業にとっても無関係な制度ではありません。
デマンドレスポンス(DR)を通じて参加すれば、報酬の獲得や電力コストの削減、エネルギー管理の高度化につながります。
特に、デマンドの把握やピーク対策といった取り組みは、日常の運用改善にも直結します。